無口な彼が残業する理由 新装版
「丸山くん?」
驚いて呼び掛けると、丸山くんは視線だけで私に応える。
目が合っただけなのに、あの目が私を捕らえていると思うだけで体が熱くなる。
今のところ声を出すつもりはないようだ。
「丸山くんも、残業なの?」
聞いたって、返事をくれるかわからない。
ドキドキしながら質問をぶつけると、
「うん」
と短く返ってきた。
「終わりそう?」
「いや」
「大変だね」
「別に」
無愛想だけど、ちゃんと会話ができている。
それだけなのに、なんだか嬉しくなってしまった。