無口な彼が残業する理由 新装版
私はひとしきり泣いて、女子トイレに駆け込んだ。
パウダーエリアで滲んだアイラインを直す。
目は少し赤くなっているけれど、
崩れたメイクは指でなぞれば大体直すことが出来た。
「あれー? 理沙先輩?」
可愛らしい声が聞こえて、鏡越しに存在を確認する。
今は会いたくなかったのに。
「おはよう、愛華ちゃん」
愛華ちゃんは私の異変に気付いて近付いてくる。
「どうしたんですか? 目、赤いですよ?」
心配してくれる可愛い後輩に、
私は必死で笑顔を作る。
「ちょっと、花粉がね」
「そっかー。私、花粉症じゃないからわからないんですよねー」
素直にただ心配してくれている。
でも、それが辛い。