無口な彼が残業する理由 新装版
「待って!」
屋内に戻る扉に手を掛けたところで何とか呼び止める。
無表情の顔がゆっくりこちらを向いた。
「何か、言ってよ」
たくさん気力を使ったんだから。
言葉にするのが苦手なら、行動でもいい。
何か反応してよ。
「ごめん」
……え……?
「何も、言えない……」
丸山くんは再び背を向けて、
この場から逃げるように屋内へ入っていった。
バタン、と音がした瞬間、
ポロリと涙がこぼれた。
「どうして、私にキスするの?」
「こうでもしなきゃ、伝わらないから」
「何が伝わらないの?」
「俺の、気持ち」
あなたが私に伝えたかった気持ちって、
何ですか?