無口な彼が残業する理由 新装版
「愛華ちゃん。もうすぐ朝礼始まっちゃう」
これ以上話していると、
もう良い先輩でいられそうになかった。
「私、先に戻ってるね」
返事を待たず急ぎ足で事務所へ戻る。
でも、あんまり辿り着きたくなかった。
丸山くんがいるあの空間に戻るのが嫌だった。
あの朝からたった数時間しか経っていなかったのに、
お早い心変わりだこと。
ううん、それは思い上がりかもしれない。
そもそも丸山くんは、
私に好きだなんて一言も言っていない。
青木が言ってた周知の事実だって
本当かどうかわからないのだ。
結局私は真実かどうかもわからない情報に舞い上がって
丸山くんにいいように弄ばれていただけだった。