無口な彼が残業する理由 新装版
入場料を払って、人の流れに身を任せていた。
少し歩けば清水の舞台に人がぞろぞろうごめいているのが見える。
視力2.0のよーく見える目が、
今日は裏目に出てしまったのか。
舞台のこちら側に、見覚えのある男女の姿をとらえてしまった。
初めは似てるな、と思った程度だった。
もう一度見て、やっぱり似てるな、と。
少し経って、ちょっと舞台も近くなって。
幻覚だと、他人のそら似だと、
そう思おうとしていた私の心は真実を認めざるを得なかった。
「神坂?」
認めてしまうと、足が止まった。
「どうした?」
きっと青木にはまだ見えていない。