無口な彼が残業する理由 新装版
お礼、で思い出した先日のこと。
あれでお礼になったんだろうか。
私が何かしてあげたかったのに、私へのご褒美になってしまっている。
青木にキスなんか許さないけれど
今日の飲み代を持つくらいはできる。
丸山くんにも何かご馳走するくらいならできるかなと思ってお礼がしたいと言ったのだけど、
まさかキスになってしまうとは。
再び丸山くんに目を向けると、
頬杖をつき無表情で私を見ていた。
目が合った瞬間、沸き上がる違和感。
同じ無表情だけどいつもと違う……かも。
視線に圧力を感じる。
怒っているような感じがする。
私、何かしたっけ?
変なこと言った?
「神坂ぁー、早くしろー」
スーツに手ぶらの青木が私を急かす。
私は丸山くんに後ろ髪を引かれる思いで事務所を後にした。