無口な彼が残業する理由 新装版
青木は顔を歪めて
「恋患いねぇ……」
とぼやくように吐き出した。
「で? お相手は?」
「秘密」
「ケチ」
「ケチで結構」
青木といると、お喋りが止まらない。
何でも話してしまいそうになるから
余計なことは漏らさないように注意しなくちゃ。
うっかり丸山くんだって言ったら、
それをネタにからかわれるに違いない。
「患うほど好きなの? そいつのこと」
「たぶんね」
「たぶんかよ」
「だって、わけわかんないんだもん、その人」
素っ気ないのに優しくて。
キスしたくせに睨んできて。
「何かされたのか?」
「実は、この前ね……」
言いかけて思い出した、
「青木には、内緒ね」
という言葉と笑顔。
私は慌てて
「何でもない」
と口を閉じた。