無口な彼が残業する理由 新装版
「勢いって、何の勢い?」
その要因になりそうなことは何もなかったはずだ。
丸山くんは答えない。
「何もないなら、戻るけど」
でも手首はまだ掴まれたままだ。
「じゃあ、一つだけいい?」
丸山くんは涼しげで綺麗な顔をまっすぐこちらに向けた。
「いいよ。なに?」
私は即答したけど丸山くんは数秒間考えて
「昨日、青木に何か言われた?」
また意味のわからないことを言った。
「別に、何も」
私は再び即答。
「あ……そう」
丸山くん、どうかしてる。
なんだかここ数日挙動不審だ。
キスしたくせに青木のことばっかり気にして。
少しくらい私のことを気にしてくれてもいいじゃない。
ちょっと期待してる自分がバカみたいだ。