無口な彼が残業する理由 新装版
「で、どうしたの?」
わざわざこんなところに連れてきたのだから、
周りの人達には聞かれたくない話なのだろう。
もしかして、この間のキスのこと?
私は体を固くして身構える。
けれど丸山くんはしばらく何も言わず、
気まずそうに頭をポリポリ掻いて街の景色の方に視線をはせた。
「丸山くん?」
そんなに言いにくいことなのだろうか。
急かすのは申し訳ない気もするけれど、
早くしないと朝礼が始まってしまう。
丸山くんは表情こそ変えないけれど、
少し申し訳なさそうな顔をこちらに向けた。
そして一言。
「ごめん」
「え……?」
それってキスのこと?
「勢いだけで連れてきた」
「え? 勢い?」
もう、わけわかんない。