甘恋集め
それからしばらくの間、お店の片付けをしたり、明日の下ごしらえを手伝ったりしていた。
そして、そろそろ日付が変わろうかという頃に、女将さんが私の前に紙袋を差し出した。
「ちゃんと食べなきゃだめだよ。梅ちゃん、食べるよりも絵を描く事ばかりに時間費やすから心配だよ」
「あ、いつもありがとうございます。……ちゃんと食べてます。大丈夫ですよ」
肩をすくめて笑って見せると、女将さんは私の頭を優しく撫でてくれて。
「本当、手離すのが寂しいよ。四年間、ほとんど毎日一緒に過ごしてきたのにね。うちの息子の嫁にでもしちゃいたいくらいだよ」
そう言ってくれるけれど、
「尚人くんなら、かわいいお嫁さんもらって、赤ちゃんもいるじゃないですか。
私よりも孫のほうがかわいいくせに」
くすくす笑って切り返した。
女将さんは私の事を本当の娘のようにかわいがってくれて、礼儀作法や料理、言葉づかいもそうだな……。
この四年間のバイト生活の中でみっちりしこんでくれた。
私の両親は仕事が忙しくて、子育てには手が回らなかった分、女将さんが補ってくれたように思う。
「本当、自慢の娘に仕上げたと思ったら、どこの誰とも知らない男にかっさらわれるんだから、嫌になるよ」
女将さんにしてみれば、話の流れの中で出ただけの自然な言葉だけど。
それは、私の気持ちをどーんと落ち込ませるに十分なパワーあふれる言葉だった。
『どこの誰とも知らない男』
まさにその通りだな。