コイン★悪い男の純情

23話 怒り

　「ただいま」
　
　淳也は実家に帰ると、真っ先に母親のたえの部屋を覘いた。

　「今、帰りました」
　「お　か　え　り」

　「お帰り、兄さん」

　兄弟喧嘩をして以来、妹の智子は母親の面倒をよく見るようになった。

　「智子、ありがとう。お袋の面倒を見てもらって。感謝しているよ。余り、無理はするなよ」

　「智　子　が　よう　して　く　れ　て　なあ。有　難　てえ　て、有　難　てえ　て」

　「まあ、お母さんたら、娘なら当たり前の事よ。兄さんだって、そんなに気を使わなくていいのに」


　「今日は、綾瀬です」
　「あら、綾瀬さんだわ。どうぞ～」


　「こんにち・・・あっ、淳也さん」


　淳也を見るなり、かんなの表情が急に険しくなった。

　「かんなさん、お久し振りです。今、帰って来ました」
　「そう・・・　吉見さん、どう」

　かんなは淳也と目を合わせようとはしない。

　「か　ん　な　さん、顔　色　が　わ　る　い　けど、どな　い　し　た　ん」

　たえが心配そうな顔で。

　「吉見さんん、大丈夫よ」

　「綾瀬さん、風邪でも引いたの」

　智子がかんなに尋ねた。

　「いいえ、大丈夫です」


　「かんなさん、疲れが出たのじゃないですか」
　「・・・」


　淳也の言葉を、かんなは無視している。