コイン★悪い男の純情
 (あの嬉しそうな顔は何や。どうせ風采の上がらない男からの電話やろ。私は絶対に安売りはせえへんからな)


 3歳年下の真美恵は、結婚選びだけは姉には負けたくなかった。

 姉の芳恵は小学校から大学まで、ずっと優等生。それに引き換え妹の真美恵は、ずっと劣等生。医大の受験にも失敗する始末。

 真美恵は小さい頃から姉と比べられ、劣等感の固まりに育てられていた。

 (マスクだけは姉には負けてはいない。この立場を逆転させるには結婚しかない)

 真美恵はそう考え、芳恵の結婚相手には、並々ならぬ関心を抱いていた。

 電話の内容から、男と今日の5時頃、大阪で待ち合わせをしている事を、真美恵はつきとめた。

 「つけてやる。どんな男か拝んだるわ」
 
 真美恵は探偵のようにどこまでもつける覚悟でいた。

 芳恵は飛び上がるばかりに嬉しかった。

 「僕では駄目ですか」
と言いながら、最終投票には自分を入れなかった憎い男。

 「今度、ご一緒しませんか」
と言いながら、2週間も連絡して来なかった恨めしい男。

 あきらめようと思えば思うほど忘れられない男。
 その男が芝純一だった。

 芳恵は精一杯のおめかしをして、京阪枚方市駅から淀屋橋に向かった。

 妹の真美恵はつばの大きな帽子で顔を隠し、芳恵をピタッと尾行していた。

 淀屋橋から地下鉄に乗り換え、梅田駅に着くと、芳恵は足早に待ち合わせ場所に向かっていた。

 真美恵は人込みの中を必死で尾行を続けていた。
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