コイン★悪い男の純情
8話 速攻
 純一は15分前から待ち合わせ場所に立っていた。

 (相手がかんななら、どんなに胸が弾むだろう)

 一瞬、そんな思いが純一の脳裏をよぎった。

 「かんなさん勘弁してください」
 純一は心の中でかんなに謝った。

 「お久し振りです」
 そこに芳恵が現れた。

 「お久し振りです。突然、電話をしたので驚かれたでしょう」
 「いいえ、とても嬉しかったです」

 グレーのスーツを知的に着こなしている芳恵が、純一の目を見て呟いた。

 二人は、シネコンが入っているビルの6階にある食堂街のレストランで食事を済ませると、8階のレビオシネマコンプレックスへ。

 映画が始まるまで、二人は今まで見た感動の映画を話題にして立ち話をしていた。そこへ、尾行を続けていた真美恵が現れた。

 「あらっ、お姉さんやないの。偶然やね。今から、映画・・・」
 「あっ! 真美恵。どうしてここに」

 「ショッピングの帰りに映画でも見ようと思てな」
 「何を見るの」

 「『ドリーム・レディ』かな。お姉さんは・・・」
 「ええっ! あなたも」

 「お姉さんもそうなん。偶然ってあるねんなあ」
 「それより、そちらの人は誰?私にも紹介してえな」

 「仕方ないな。こちらは芝さん。これは妹の真美恵です」
 「真美恵です。よろしうに」
 「芝です。よろしく」

 「えらい素敵な人やけど、お姉さんいったいどこで知りあったん」
 「これっ、失礼な事を言ってからに。真美恵はあっちにお行き」

 「はい、はい。私は邪魔みたいやから失礼するわ。芝さん、ほな、また」
 「失礼します」

 芳恵は真美恵が去ってほっと胸を撫で下ろした。

 


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