コイン★悪い男の純情
 目は映画を見ているが、純一の頭は、この仕事のシナリオの変更を倍速で考えていた。


 この仕事を中断するか。


 それとも、続行するか。


 続行するなら、速攻、縮小に切り替えるか。


 純一の考えがまとまらないうちに、映画が終わった。

 芳恵が劇場のトイレに立ち去った。
 真美恵が純一に近寄った。

 「電話番号を教えてくれへん」
 「芳恵さんにも教えてないのに、教える事は出来ない」

 「それやったら、これ渡しておくわ」

 純一がメモを見ると、真美恵の携帯の電話番号とメールアドレスが書かれていた。

 「必ず、電話してや。きっとやで」
 「・・・」

 純一は沈黙しながら、
(腹は決まった。速攻で行くか)
と、心の中で呟いた。

 「お待たせ」
 芳恵がトイレから帰って来た。

 「私たちは寄る所があるので、真美恵はひとりでお帰り」
 「ひとりにするん」

 真美恵は不服だったが、渋々姉の言葉に従った。


 (その代わり、地獄の果てまでつけてやる)


 真美恵はバッグの中から帽子を取り出すと、それを深めに被り、二人を尾行し始めた。

 
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