コイン★悪い男の純情
 二人はエレベーターが満員なので、エスカレーターで下へ。

 3階に着く直前に純一が振り返った。やはり、上の方に真美恵の姿があった。

 真美恵が尾行しているのに気が付くと、純一と芳恵は3階で降りるやいなや、近くの店に身を潜めた。

 別のエスカレーターで上に上がると、二人は6階の喫茶店に入った。
 ウエイトレスがコーヒーをテーブルに置いて、去って行った。

 「真美恵さんがつけていますが、あれは家からですね」
 「ええ、そんな・・・」

 「間違いありません」
 「真美恵は何を考えているのでしょう」

 「映画を見ている時、真美恵さんは僕の手をスカートの中に入れました」
 「えっ! そんな事までするのですか」

 「それだけではありません。あなたがトイレに行っている間に、僕に電話番号を教えろと迫りました。もちろん、断りましたが」

 「あの子ったら・・・」
 「断れば、このメモを」

 そう言って、純一は真美恵が書いたメモを芳恵に渡した。

 メモには真美恵の名前と携帯の電話番号、メールアドレスが書かれている。

 その筆跡は芳恵には確かに見覚えがあった。
 真美恵が書いたものだった。


 「僕は芳恵さんを裏切る気持ちはありません」


 そう言うと、純一はテーブルに置かれているメモを取り、それを粉々に破った。

 芳恵は自分より美人で若い真美恵に乗り換えることなく、
「裏切る気持ちはありません」
と、言い切る純一に深い慈しみを感じた。

 
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