コイン★悪い男の純情
10話 寝小便
 「帰 らん とって。 帰 らん とって。帰 った ら い や や」

 淳也の母のたえは、ヘルパーのかんなの手を左手で掴んで離さなかった。

 「お 願 い や。ひと り に せん とって」
 「許してね。また夜に来たあげるね」

 かんなはたえの手を優しく離した。すると、たえはめそめそと泣き出した。

 たえの目から、ポトン、ポトンと涙が落ちる。

 「い や や。う~、うっう~、うっ、うっ・・・」

 たえの顔は鼻水と涙でぐちゃぐちゃになっている。

 「嫌だわ。吉見さんたらっ」

 かんなはたえの顔をティシュで拭いてやった。そして、かんなはたえを抱き締めて、頬をすり付けた。

 「また、来るからね。それまで、待っていてね」
 「ううん、うっ、うっうっう~」

 「じゃ、帰るね」
 「・・・」

 かんなは次の仕事を終えて、夜にまた子供を連れて来ようと思っていた。

 「失礼します」

 「ご苦労様」

 玄関口で淳也の妹の智子がかんなに挨拶をした。
 智子は母の長期の看病で心身共に疲れていた。

 智子は母と二人っきりで顔をつき合わせていると、時々、発狂しそうになった。

 それで、気晴らしに、京都や大阪でショッピングをして、智子は憂さを晴らしている。

 (母の事は、出来るだけヘルパーに任せよう)

 智子は最近、そう考えるようになっていたのだ。


 
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