コイン★悪い男の純情
 「俺は恥ずかしやがりなんだ」
 「へえ、そうなん・・・。うちを見れる。目そらしたら許せへんで」

 絵美はバスタオルを下にパッと落とすと、挑発するように全身を見せ付けた。

 純一は無言で絵美の手を荒々しく引っ張ると、絵美を力付けで押さえ付けた。



 「う~~~んんんんん」



 絵美が呻き声を上げて死んだようになった。



 純一が絵美を見詰めた。

 絵美は目をしっかりと閉じている。その時、絵美の目から一筋涙が零れ落ちた。

 純一が涙に口付けし、涙を口で拭った。

 絵美の目がパチリと開いた。
 絵美は純一を力いっぱいに抱き締めた。

 「やっぱり、うちの睨んだ通りや。あんたは最高や」

 純一は首に回した絵美の腕をさりげなく振り解くと、素早く身支度を整えた。

 「そんなに急がんかて、もっとゆっくりしたらええのに」

 「急ぎの用があるので、悪いがこれで失礼する。勘定は済ませておくから」

 純一がフロントに電話を入れる。

 「待って。連絡場所を聞いておくわ。教えてくれる」

 「電話はこちらからするから」
 「なあ、教えてえな」

 「俺は忙しくて、普段は私用の電話には出ないのだ。こちらから電話をするから待っていて欲しい」

 「なんで、電話教えられへんの」
 「言う事が聞けないなら、これで終わりにしよう」

 「待って。わかったわ。負けたわ。うちが待つわ。その代わり、絶対電話をすると約束して」

 「ああ約束するよ。近い内に必ず電話をするよ」

 「きっとやで」
 「ああ、わかった。じゃな」

 フロントで勘定を済ませると、純一は5番街を足早に出て、夜の地下街の雑踏の海に潜り込んだ。



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