摩天楼Devil
やたら、冷たい声に聞こえた。


お兄さんは車に乗り、すぐに発進した。


車が去ると、まるで私の存在を忘れたかのように、篤志さんはうつむき、額を押さえてた。


完全に、まいった、といった感じだ。


「篤志さん……あの、お兄さん、ですか?」


そう呼びかけるが、返答はなかった。


彼は振り返ると同時に、私を抱き締めた。


「あ、篤志さん?」


屋外で、しかも叔父夫婦の店の前で、こんなことされると、ちょっと困る。


やあねぇ、と言いながら、おばさんが数人通りすぎた。


彼は構わず、抱き締め続ける。


「妃奈……」


「は、はい」


「兄さんには、絶対に近づくな。声をかけられても、絶対シカトしろ」


――そ、そんなこと、急に言われても。


大体、また会うことあるの?

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