摩天楼Devil
もしかしたら、るみおばちゃんは、

『今度こそ、一緒に家を出よう』


とでも言ってくれると思った。


もちろん、母さん とは呼べないけど、恨んでないとは言いきれないけど、


子どもを“物”や“家畜”みたいに扱う場所にはいたくない。


この、痛いぐらい冷たく刺さるような家から、ずっとずっと逃げたかった。


小さい頃から、兄ちゃんやるみおばちゃんのとこへ逃げたかったんだ。


兄ちゃんはもういない。


るみおばちゃんしか、確かに支えは残ってないんだ。



願いは届かない。


――るみおばちゃんも、姿を消した。


置き手紙も残さず、この冷たい場所に、

たとえ家政婦と雇主の息子という立場でも、

15年間も一緒にいたのに、また別の家に息子を取られると知った瞬間、逃げたのだ。


大人達だけで、話は進められていった。


大学までは、藤堂篤志 として生きていく。

20歳までに“発表”し、戸籍上、今の家族と他人になるのは、卒業後となる。


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