摩天楼Devil
「お義兄さんは……ヒナのお父さんは、仕事人間でさ。家族サービスなんて皆無。

あの子もずいぶん、寂しい思いしてきたよ。だからこそ、その穴を埋めたいんだよ。

現に、バレンタインの日だって、仕事で1日中会えない。

でも、彼の部屋か、リビングに置いておくんだってさ」


ちゃんと食べてもらうために、だって。


バカバカしい。勝手にしてろ。


どうせまた見返りだろ?ホワイトデーなんて、都合のいいもんがある。


俺は、カウンターに座り、おでんを待った。

できたのは、開店後で、ちらほらと常連客が入ってきた。


おじさんは接客や料理しながらも、奥のほうにチラチラと心配そうに、視線を送る。


その度におばさんは、「お義姉さんには連絡してあるから」と言った。


どうやら、“ヒナ”はまだ残って、ケーキを作り続けてるらしい。


――人に心配かけて、いい気なもんだな。


これだから、女は困る、と思った頃、


がらっと、戸の開く音がして、女の子がカウンターの中に飛び込んできた。


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