摩天楼Devil
頼む!


頼むから、彼女だけはやめてくれ!


俺なら、いくらでも傷つけられても構わない……!


だから、


――妃奈だけは……


最上階のスイートルームだということは分かった。


なかなか来てくれないエレベーターから離れ、階段へ向かった。


フロント係と話してからどのくらい経ったのか……


正直、そんな体力のあるほうではない。


自分でも不思議なくらい、階段を駆けのぼり続けれた。


当然、息はあがるし、足も本当ならフラフラだ。


俗にいう、火事場のクソぢから?


とにかく、必死だった。


お目当ての部屋まで来るときには、壁づたいに歩くほど。


「ひな……に、いさ……頼む……」


手を出すな――


横に設置されてたインターホンのボタンを押した。


ややあって、「はい」と、かしこまった声がした。


間違いない、兄さんの声だ。


「に、兄さん……俺だ……開けてくれ」


本来なら、開けろ、と怒鳴りたい。


が、情けないことに、今の俺にはそんな気力も勇気もない。


なんせ、足には力が入らないし、何より大切なものは、奴の傍にいるはずなんだ。

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