摩天楼Devil
そう簡単には入れてはくれないだろう。


そう考えていたのに、ドアはガチャと開いた。


兄さんは、開いたドアにもたれるように立ち、俺を迎えた。


入れ、といわんばかりに。


言われなくても、俺は飛び込んでた。


なぜなら、彼の姿を見たからだ。


兄さんの格好はバスローブだった。


力が入らないはずの足で、中に走ると――


ダブルベッドの中央に、女の子がいた。


制服は乱れてた。


彼女はブラウスを握るように閉め、小さくなってた。


「……ッ……ひな……」


彼女は顔を上げた。


相当泣いたんだろう。

涙と汗でグシャグシャだった。


「あ、つしさ……」


「遅かったな。今、頂いたところだ」


クスクス、と不気味な笑い声がして、背後に男が立つ。


――コロシテヤル――


ベッドの近くに小さなテーブルがあり、フルーツ盛りと、それが置いてあった。


“それ”とは、果物ナイフ。


俺は完全にそれしか目に入らなかった。


テーブルに近づき、ナイフを掴むと、ただ冷静に立つ兄の胸ぐらを持ち、足をかけると、力いっぱい床に倒した。


彼はまだ冷静だった。
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