摩天楼Devil
――違う、妃奈。そうじゃない……


聞けば、婚約を解消しない、ちゃんと従うことを条件に、篠山駿にレイさんのネイルサロンを聞いたらしい。


「レイさんなら、篤志さんに会う方法知ってるかな、って。教えてもらう自信もなかったけどね」


「……で、俺に会ったわけだ」


ビクン、と妃奈が震えた。


俺は抱きしめる腕に力を込めて言った。


「いますぐ、出でけ。妃奈が動けるようになったら、出てく。だけど、また俺に殺意を抱かせるまえに、さっさと目の前から消えてくれ」


また、不気味な笑い声がして、その足音は去った。


「妃奈。服を直そ……こんなとこ出るぞ」


「あのね、何もなかったの」


「はい?」


「……服、ちょっと脱がされちゃったけど、でも……何も……」


正直、一気に安堵した。が、言わなきゃいけない。


「そんな問題じゃないだろ!」


妃奈はキョトンとしていたが、すぐにまた泣き出す。


「分かってるもん……こわ、怖かったもん……」


「妃奈……もう、大丈夫だ。ちょっとだけ出てくる。すぐに戻るから」


< 273 / 316 >

この作品をシェア

pagetop