わたしの姫君
「ほんっとムカつくあのクソじじい!」
充てられた宿の、寝台の上にあった枕を思い切り床に投げつけた。
柔らかい絨毯の上で枕が跳ねる。ルシアは乱れた髪を気にもせず、悪魔のような形相で室内を見渡した。決して高級とはいえないが、そこそこ値の張る宿なのだろう。夜になると昼の暑さも忘れるほど冷え込む。だが煉瓦造りのおかげで、昼間の熱をそのまま閉じ込めたような暖かさが室内にはある。書きもの程度ならばできるだろう木の机と木の椅子。座ると若干軋みをあげる木組みの寝台。南の地でよく見られる朱色と金の刺繍が施された織物が、そんな素朴な室内をほんの少し華やかにさせている。
(なにがお仲間よ。確かに魔物も魔族だけどさ!)
枕以外に何か投げつけるものはないかと探してみたが、ルシアの不満を解消させてくれそうなものは何もなく、諦めて寝台の上に強襲をかける勢いで倒れこんだ。勢いにのったルシアの細い身体が、寝台の上で軽く跳ねた。
(――そんなこと言ったって、本当は魔物の対処はあたしたちで何とかしないといけないのよね)
部屋の隅に転がっている枕を拾い上げると、ルシアは再び寝台の上に寝転がる。ふわふわの枕を抱え込み、ふと思い出しそうになる酒場の店主の顔を避けるように目を閉じた。
やがて、考え事をしていたルシアは、穏やかに訪れつつある夜に、寝息を響かせた。