わたしの姫君

「面倒なことに巻き込まれたくないのよ」

「まぁ、そりゃあ一理あるが……もったいない」

 賞金が上がればもちろん重要度も増す。重要度が増すということは、国家規模の依頼もまぎれているということだ。お気楽に、ある一定の生活が約束できる程度のお金さえあれば、ルシアには満足なのだ。あえて自分から問題事に首をつっこむほど、お人好しでもなければ腕試しを試みようなんて思いもない。


「なら後腐れのない依頼ならいいのかい」

「そうだけど。そんな都合のいい仕事はないでしょ」


 ため息をついて、二杯目の酒を注文したところで、店主の男はにやりと口元に笑みを作った。

「魔物退治なんて、うってつけじゃないか。お嬢さんの腕がどれくらいかは知らないが、魔族なら死ぬことはないだろう。どうだ、最初の予定どおり銀貨三十枚だ」

 ついでに今夜の宿と食事代はサービスだ、と言ったのを聞いて、ルシアは目を細めた。

 嫌な予感しかしない。

 魔物退治の相場は大抵銀貨五枚、よくても十枚といったところだ。その三倍、さらに暖かい寝台と食事を無料でつけると言われれば、裏を読むなというほうが難しい。


「……何を企んでるのよ」

「さすがに用心深いな。ま、そんなに危険なものじゃないさ。魔物が魔物を呼んでちょっと混乱してただけだ。今この辺りに奴らをどうにかできる腕の持ち主がいなくて、ちょうど困ってたところなんだ」

「魔物が魔物を呼ぶ?」

「まぁ行けばわかるさ。奴らが活発になるのは夜中だからそれまでゆっくりしてくれ。あ、そうそう、この町に寄りつかないようにお仲間さんに言い聞かせてくれたら、さらに銀貨を五枚おまけだ」

 言い終わらぬうちに店主は下品な笑い声を店内に響かせた。

 飲んだ酒はまだ二杯だというのに、ルシアは堪えようもない頭痛に悩まされた。
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