わたしの姫君

(なるほどね。気配を感じさせない程度の知性はあるってことか)

 ルシアは目を細めて、二頭の魔物がいるだろう場所に定めをつけた。

 すっと腕をつきだし、まるで握手を求めるような仕草をする。だが、その指が完全に握られた瞬間、辺りに目もくらむような光が溢れた。光に浮かび上がった二頭の獣は、どちらも狼のような肢体を持ち、やはり想像していた通り、金色の鬣を持つ魔物だった。鋭い牙の隙間から滴らせる涎を見れば、とても知性のある獣とは思えない姿である。

 どんっ、と鈍い音が静寂に落ちる。

 辺りは再び闇に落ちていた。だが、その音が獣の倒れた音だということを、ルシアは確認しなくてもわかっていた。

 次第に、硫黄に似た、鼻をつく嫌な臭いが辺りに充満してきた。

 獣がルシアの魔術で焼けた臭いだ。もう一頭の魔物が、その臭いに反応し遠吠えを上げる。穏やかな夜が、一気に激しさを含んだ瞬間だ。

 遠吠えが、仲間を呼ぶものだとルシアはわかっていたが、止めることもせずただ目を細めたまま獣を見つめていた。

 やがて近くにいたのか、そう時間が経たないうちに気配が膨れ上がる。姿こそまだ見えないが、迫ってきつつある敵の視線に、ルシアは鳥肌がたつほど高揚していた。胸の奥がじわじわと熱を帯びてきているのを自覚した。
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