わたしの姫君
ルシアと同じように旅装束を身にまとっていたが、そんなに長期間の旅ではないのか、汚れもそれほど目立たない。
頭に被っていたフードを下ろすと、青年はルシアに向かってにっこり笑った。
南の地方によく見られる真っ黒な髪は、男性の細く骨ばった顎のあたりの長さで綺麗に切りそろえられている。風に揺られれば、彼の髪のようにゆらゆら揺れて倒れてしまいそうなほど華奢な体つきだというのに、なぜか力強さのようなものを感じさせる青年だ。黒目の大きな瞳や、南方では珍しい色白の肌、笑みを解いても口元の穏やかな曲線は保ったままの柔らかい表情も、どこか中性的な甘さを持つというのに、やはり彼から感じる力強さは変わらない。年齢も、ルシアより五つか六つほど上だろうくらいで、年齢から感じる重みでもない。
「旅の途中ですか?」
ええ、と頷いてから、ルシアは自分がいまだ頭に被ったフードを下ろしていないことに気づいて、慌てておろした。
故郷の国では、人と対面するとき、頭にかぶりものをしたままは大変失礼な行為だからだ。もしこの国でも同じような風習があるのならば、ルシアは失礼にあたる行動をとっていることになる。
「魔族――ですか?」
ルシアが顔を上げ、青年に詫びようと思ったときだった。
彼の表情に、一瞬影が差した。だが、それもつかの間。ルシアの視線を感じると、すぐに人のよさそうな笑顔を浮かべた。
「……ここでは魔族は珍しい?」
「そうですね。――珍しいかもしれません」