わたしの姫君
言って、青年はルシアの金髪を見た。
腰まで伸びた金髪は、二年も旅をしてきたとは到底思えない輝きを持っていた。光を取り込み、陽を反射させ、生きる宝石だ。そしてその輝きを持った金髪こそ、魔族の証の色である。人間では、持って生まれてくる者がいない金髪なのだ。
「それに、紫の眼というのは、私の知っている限り見たことがないので余計に珍しく感じるのかもしれません」
ルシアはそういうものか、となんだか他人事のように青年の話す言葉を聞いていた。
意識して気にしてみなければ、自分の眼の色など普段は念頭にない。ましてや旅の途中、鏡を覗く機会も少なくなる。朝、泉で顔を洗うとき、ぼんやりと映った自分の顔を見るのが精いっぱいなのだ。
確かにルシアの眼は仲間内でも珍しいだの、美しいだの言われたこともあった。ちょうど明け方、夜が明けようとする瞬間の空の色だと言ったのは誰だっただろう、と不意に懐古の念がルシアを襲う。空が白みはじめ、濃い闇から青空に変わる瞬間の深い紫。一日のうち、僅かな時しか見られない、珍しく貴重な色なのだよ、と。その話を聞いていたときも、確かやはりそんなものかと感じていたように思う。ただ自分の持つ色が当たり前になりすぎているだけかもしれないが。
「……そ。まぁいいわ。それよりも、この辺りで一番近い町はどこかわかる?」
「それでしたら、あの町ですね」
青年は、ルシアの隣までやってくると、先ほどまで覗いていた丘の下を指差した。
「これから私も向かうところでしたので、よければご一緒しませんか」
「そうしてもらえると助かるわ……えっと」
青年は、ルシアが言わんことを素早く悟って、「これは失礼」と笑顔のまま軽く会釈した。
「申し遅れました、私はフェルーラ・ワルトと申します。差し支えなければ、貴方のお名前を拝聴しても?」
「あたしはルシア。ルシア・クレイダーよ。よろしくお願いするわ」