甘くて切なくて、愛おしくて


「さみぃな」


外に出て呟くと、一緒に白い息が出た。今朝の天気予報によると、今日から冬本番になるらしい。今日が初雪となる個所も多いとも言っていた。こんなに寒いなら雪も降るだろう。

寒いのは好きじゃない。何よりも、失ったあいつの冷たさを思い出してしまうから。


歩き出すと冷たい風が頬を突き刺す。空は灰色で今にも雪が降りそうだ。街を歩く人達もみんなコートを着込んで縮こまりながら歩いている。ユウキの事を心配しながら歩いていると曲がり角の所から声が聞こえた。


「約束だからな」

「あ、でもちょっと待って!」


どちらも聞き覚えのある、しかも一人は息子の声だ。となるともう一人は..


「ユウキ君!!」


二度目の声でその主が分かり、そして変に緊張してしまう。


なんでこんな時に限って会うんだか..それでもこの先を普通の顔をして歩く勇気も持てず、来た道を戻る。少し遠回りになるが、反対側から行けば会わずに済むし、電車も一緒になる事はないだろう。


ただ、ユウキと蝶花が何を話して、約束をしたのか俺には分からないままだった。






< 234 / 268 >

この作品をシェア

pagetop