アパートに帰ろう
PROLOGUE
星の綺麗な澄んだ夜。サーカス小屋の団員寮の一室で、ダディは静かに息を引き取った。


「……ダディ」


握っていた手が、力をなくし重くなる。


ねえ、ダディ。
どうしてこんなになるまで黙ってたの。

あなたがいなくなったら私はどうしたらいいの?



人や動物が違法に売られてくる、このサーカス団での生活は地獄だった。


間違いで売られてきた、才能のない私への待遇は酷いもので。


朝から公演ぎりぎりまで技を仕込まれ、夕方から舞台にあがり疲れきって床につく。


芸に支障が出ない程度に、カロリーだけ計算された食事が1日2食支給された。


まずくてまずくて何度も吐きそうになりながら、"死にたくない"、その一心で生きていた。


その暗闇に光を与えてくれたのがダディだ。



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