キオクノカケラ

ようやく全ての手続きが終わって、家に帰る車の中で

車窓に顔を向けたまま、ふいに詩織が口を開いた。


「結城くん……」


「…何だい?」


オレも携帯をいじりながら答えると。

詩織がゆっくりとこちらを向いたのが気配で分かる。


「さっきから、ずっと気になってたんだけどね」


「…私をいくらで買ったの?」


とうとう聞かれたか――……。

ま、あのオバサンが余計なこと言ってたから

近いうちに聞かれるとは思ってたけど。


オレは視線だけを章に向けると、

あいつも目を合わせたまま静かに頷いた。


「――……2億」


携帯から目を離さずに、そうぽそりと答えると

少し間が空いて、詩織のまぬけな返事が返ってきた。


「…はい?」


「だから…2億。
お前を買った値段だよ」


「にっ…におくって………2億?!」


右手で2を表しながら身を乗り出す詩織を横目に

オレは携帯をパタンと閉じると、何か言おうと口を開いた詩織を手で制する。


「金なら返さなくていいよ」


「でっ、でも!!」


「オレがいいって言ってるんだ、大丈夫」


しっかりと詩織の目を見ながら微笑めば、ほんのり頬を染めて俯いた。

その時、ほんの小さな声で呟いた言葉をオレが聞き逃す訳もなく。


「何がずるいんだい?」


そう悪戯っぽく笑えば、勢いよく顔を上げて、両手を顔の前で振る。


「な、何でもないよ!!」


「へぇ?」


何でもないようには見えなかったけどね。

詩織がそう言うなら……。

まぁ、そういうことにしといてもいい…かな。


「そ、それより!
やっぱりお金は返すよ」


そんなことを考えていた時、パンッと両手を合わせた音と共に響く突然の予想外の言葉。

…思ったより、なかなか強情だね。


「へぇ……どうして?」

詩織の意外な言葉に内心驚きつつ、平静を装って尋ねると。

彼女は慌てたように答えた。


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