万年樹の旅人
一章

 夢の中で、ユナは一頭の獣と対峙していた。

 やつは獅子でもあり鳥でもあった。そして言えるのは見たこともない姿だということだ。長い体毛は風もないのにゆらゆらと揺れ、丸みを帯びた背には鬣などの体毛と同じ金色をした羽が生えていた。ユナを威嚇するように羽ばたきを繰り返し、大きな牙を覗かせ、てらてらと光る涎を滴らせた。

 辺りは暗く、獣の大きな金色に光る双眸だけが煌々と輝いている。音もなければ一切のにおいもない。自分が立っているのか、それとも座っているのか、それすらもわからない場所で、ただ不気味なほど強く輝く獣の視線を凝視しているのだけはわかった。

(まただ。またこの夢……)

 目を逸らしたくとも、目を閉じたくとも、全ての行動に糸を縫ったかのように、ユナは些細な動きすら封じられていた。目を逸らすな、とでも言いたげに獣の眸の輝きが一層強くなる。やがて、目の前の獣の腕が伸び、長く薄汚れた爪がユナの顔めがけて迫ってくる。喉を掻き毟ろうと爪が、瞳が、獲物を捉えて輝いた。だが、どうしたことか、獣の爪はまるでユナに届かないでいた。

 その瞬間、いつも体が燃えたように熱くなる。瞬間的に目を瞑りたい衝動に襲われるが、それは一度として成功しなかった。かわりに広い額から、じわりと汗が滲むだけ。鼓動が、走り出すように速くなっていく。

 そうして、しばらく獣の爪が触れるか触れないかの恐怖の中に立たされながら、ユナは目覚める――はずだった。いつもならば。

 だが、今日は違った。
< 1 / 96 >

この作品をシェア

pagetop