万年樹の旅人

(月から枝を持ち帰ったっていうあのお話……あれも誰もが知っている伝承じゃなかったっけ。もしかして、ラムザ爺さんの話してくれる物語はあのお話のことなのかな)

 いつもとは違う夢を見て、さらに身を乗っ取られるような薄気味の悪い心地でいたことをどうでもいいと思えてしまうほど、今はラムザ爺さんの話す物語のほうが気になっていた。

 ただの夢の気まぐれ、と言い切ってしまうにはあまりにも偶然が重なりすぎているように思う。思えば、獣の夢の途中で出てきた樹は万年樹ではなかったか?

 万年樹と一体化していた女性は、ルーンと呼ばれた王女ではなかったか。あまりにできすぎている、繋がりすぎている。

 そうして、不安になる。自分という存在が。

 もともと自分はラムザ爺さんとは直接血の繋がりはない。ただ拾われただけの子供だ。自分が捨てられていたという状況は、聞いていてあまり心地の良いものではない。だから事細かく訊いたことはない。だが、と思う。今更になって、自分がどういう生まれなのかが不安になってきた。ラムザ爺さんを本当の家族――それこそ父のように思っている。今でもその想いは変わらない。だが本当の自分は、もともとどこにいるべき存在だったのだろう、とこのとき初めて不安になったのだ。

「ほら、今日は学舎に行く日じゃないのかい。早くしないと間に合わなくなってしまうよ」

 すっかりスプーンを持つ手が疎かになっていたのを見咎めて、ラムザは席から立ち上がり言った。

 ユナはごめんなさい、と呟き慌てて汁を流し込むと、心が晴れないまま家を後にした。
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