万年樹の旅人
王城を中心とし、波紋を広げるようにして城下街はあった。
街路は隙間なく石畳で埋もれ、鳥の視線を借りたのならきっと感嘆することだろう。街全体の石畳は、何枚も重ねて万年樹を模した配列になっていた。
ラナトゥーンは、石造りの建物が多く、城下街に並ぶ建築物もその例から外れない。穿たれた窓にはどこも硝子は嵌められておらず、一年中山野から流れてくる風や匂いを感じた。開放的だ、と思わせるのはそれだけではなく、街を行き交う者も多ければ、それらの人々がみな穏和な雰囲気を持っているからだろう。
決して豊かな国ではないが、常春ゆえに冬の寒さに凍えて命を失う者も、食料が底を尽きることもない。それらを巡って、争うこともない。民の気性はとても穏やかで、誰かと誰かが口争いをしている場面に直面するなど、滅多にない。護身用の軽い武器ならば、城勤めの者以外でも身に帯びることを許可されているが、このような風潮ゆえに、売れることもほとんどなかった。
街には城の騎士団が警備に配置されているが、彼らが動くことは例外的な事件にでも直面しない限りないに等しいので、騎士団の中で彼らの位置はさほど重要視されていない。もっとも、街へ買出しへと行かされる者は、その更に上を行くが――
「ジェス、今から姫さんと逢引きかい?」
紙袋いっぱいに詰め込まれた食料や医療品、それらを両手いっぱいに抱えたジェスの背後から声がかかり、視線だけをそちらに移しため息をついた。
「見てわかるだろう。……それにその逢引きってなんだよ」
いたずらを楽しむ、幼い少年の笑顔にも似たそれを浮かべながら、男はジェスの抱えていた紙袋をひとつ奪うように抱えた。中からよく熟れた果実を取り出すと、ジェスの咎めるような呼びかけにも「大丈夫、ひとつくらいバレやしない」とあっけらかんと笑ってみせた。