万年樹の旅人

「随分とリュウと仲良くなったのですね」


 自分でも厭味な言い方だ、とジェスは思う。

普段感情を外に表すことなど滅多にないジェスの言葉に、リュウは、溶かすように笑顔を消した。何か言いたげな瞳がジェスを捉える。困惑に染まった瞳をそれ以上見ていることができず、ジェスが視線を逸らすと、ルーンは二人の間に流れた空気など一切見えていないかのように、いつもどおりの調子でジェスの腕を引っ張った。

「当たり前じゃない。ジェスのお友達なんですもの。それよりも、ほら、早くこっちに――」

 全てを言い終わるよりも先に、ルーンが首を傾げた。視線はジェスの右手――花飾りを包んでいる留め紐が風に靡いていた。


「それはなに?」
「いや、なんでもない」


 ルーンの指先がジェスの手に触れようとした瞬間、ジェスは避けるように右手を自分の背後に回した。だがいつの間にか隣に来ていたリュウの手によってそれは阻止された。いつになく真面目な面持ちのリュウが、握られていた手を力いっぱいこじ開けた。ジェスが握り締めていたせいで少し歪んだ、可愛らしい包装紙が申し訳ないように姿を現した。

「これ、渡すんだろう?」

 ジェスの目を見据えたリュウは、もう先ほどのような困惑の色はなかった。笑顔が胸に痛い。ジェスはなぜか罪悪感に駆られた。

「なに? どうしたの?」

 更に近寄り、覗き込むようにして二人の間に割って入ってきたルーンを見て、ジェスは覚悟を決めた。正直気恥ずかしいという気持ちは拭えない。もともとリュウがいると知っていたら、渡すのすら後日にまわしたというのに。そのまま渡さす、知らずごみとなっているだろうことは明白だが。

 すっと伸びてきた腕に、ルーンはやはり首を傾げた。
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