万年樹の旅人
「これをルーンに渡そうと思って……」
やがて皺だらけになった包装紙と、小ぶりの花に似せて組まれた細く赤いリボンが大きな手のひらにのっていることに気付き、ルーンは言葉を失った。
ただじっと髪飾りを見入るルーンに、たまらず先に声を出したのはジェスだった。
「あの、買出しのときに店番の方につかまって、無理矢理買わされたものなので、あの、だから、ルーンが前つけていたものに比べたら全然見れるものでもないし……って、そうじゃなくて、えっと、要は自分が持っていても仕方ないので受け取って貰えると助かる」
言葉の最後、窄むように声が小さくなっていくのを見ていたリュウが思わず吹き出し、声をあげて笑った。相変わらずルーンはじっと花飾りを見つめたまま喋るどころか動く気配すらない。瞬きも忘れた瞳は、全ての光を吸収したかのように光り輝いている。
「いや、別に無理にってわけじゃないんだけど。贈り物なんてしょっちゅうだろうし、何より安物だし」
言ってため息を落とした。
そもそも、ルーンに何かを贈ろうなどとなぜ考えてしまったのだろうか。身分なんて、雛と鷹ほどの差があるというのに。親しくしてもらい、勘違いをしてしまったのかもしれない。自分と並んでいるような錯覚に陥ってしまったのかもしれない。本当は、自分は常に見上げる位置にいるというに。
「――これ、わたしに?」
ジェスが咄嗟に顔を上げると、風に紛れてしまいそうなほど小さな、遠慮がちな声でルーンが呟いた。そろりと長い指が伸びてきて、ジェスの手の中にある髪留めに触れた。
皺になった包装紙が、音をたてる。花の形に組まれた赤いリボンが、ゆるゆると解かれていき、ジェスはその様子をただ見つめることしかできずにいた。