万年樹の旅人
蒼白い顔をなんとか上げてニコルを見れば、突然の出来事に狼狽し、それでも心配しているふうの表情が窺えて、不謹慎にも嬉しくなった。
だがその笑顔も続かなかった。
胸の奥から、じわりと広がる痛み。眉間やこめかみに覚えた鈍器で殴られたような鈍い痛みではなく、痺れにも似た痛みだった。ゆっくりと、それは徐々に全身をも覆って、手足はもちろん意識までも麻痺させてしまうのではないかという恐怖が唐突にユナを襲う。鈍い痛みを堪えて大きく息を吸い込もうとしてみても、うまく呼吸ができなかった。吸うことも、吐くことも。次第に目の前が霞み始める。
「どうしたの!」
女教師が、血相を変えて駆けてくるのが横目に見えた。それも次第におぼろげになり、瞼が落ちていく。
「ユナ!」
そう呼んだのはニコルなのだろうか。確かめたくても、目があかない。
――なんだか、前にもこんなことがあった気がする。だけどそれがいつの頃かはわからない。
目を開けて、大丈夫、と伝えなくちゃいけないという焦燥だけがある。あのときも、今も。
だから泣かなくても大丈夫。それにこんなたくさんの人の前で泣いたら、駄目、だ。
――君は王妃になるんだから。
そうして、ユナの意識は完全に途絶えた。