万年樹の旅人


 アズの誕生日パーティー当日、言っていたとおり、案内の男が一人屯所にやってきた。無口で邪険、とまではいかないが、丁寧な案内ではなかった。ジェスとリュウは、同じく無言で彼の後を追い、まるで囚人のような扱いだ、とジェスは内心ため息を洩らした。

 城の中に入り、赤い絨毯の敷かれた長い廊下を進む。慌しく走り回る城仕えの者が、見知らぬ顔を見つけて一瞬訝しがるが、案内役の男の顔を見つけて納得した表情で軽く会釈をした。

 やがていくらか歩いたのち、ジェスらの前を行く男が立ち止まり振り返った。短く入れと吐き捨てるような台詞を二人に告げると、顎で促す。鼠一匹たりとも入り込む隙間がないほど厳重に閉じられた扉が四つ、城の廊下の突き当たりに姿を現した。廊下の幅が、徐々に広くなっていたのは知っていたが、堂々たる扉を目の前にしてやっと、その理由がわかった。ひとつの扉で、十人は並んで通れるほどの壮大さ。扉の中央から左右に向かって開かれる向こう側は、城の外――庭園だ。

 扉に近づき手を触れようとした瞬間、音楽が聞こえてきた。

 弦楽器、管楽器、打楽器、さまざまな音が重なり、そのなかに人々の喧騒も雑じる。ジェスたちが佇む廊下側とはうってかわって明るい光景が想像できた。

 意を決してジェスが扉を力いっぱい押すと、薄暗い廊下に眩しい陽の光が途端に差し込んできた。思わず目を細めたジェスとリュウの鼻腔をくすぐる、たくさんのにおい。花や植物はもちろん、甘辛い味付けで焼き上げた肉の香り、蜜に漬け込んだ果物の甘酸っぱい香り、香りだけで酔ってしまいそうなほど濃厚な酒のにおい。真っ白なテーブルクロスの上に並べられた食べ物はどれもジェスらが普段食べているものとは違い、中には見たこともない形や色の食材があり、それらをひとつひとつ聞いて周るだけで一日が暮れてしまいそうだ。

 身内だけの軽いパーディーだと聞いていたが、想像していた以上に規模が大きい。集められた人も、よくこれだけの人数がこのラナトゥーンにいたものだと感嘆する。
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