万年樹の旅人
「だから、嫌だって言ってるじゃない!」
楽師が奏でる音楽にも劣らぬ綺麗な声が、ジェスのもとに飛んできた。思わず隣のリュウを見やると、肩をすくめて苦笑していた。
「姫さんの声だが、姿が見えないな」
「ああ……」
頷いて、辺りを見渡す。
それほど離れてはいない場所からの声だった。ならば近くにいるのだろうか、と探してみても、視界を惑わすほど隙間なく集められた人の集まりに、ジェスもリュウもため息しか出てこなかった。
実際のところ、ため息が漏れてしまうのは、ルーンが見つからないからではなかった。周りの――庭園に集められた者たちと、自分らの姿があまりにも違いすぎて、わかってはいたものの、やはり自分らには過ぎたる場所なのだ、と妙に惨めな気分になる。寄せ集められた宝石の中にたったひとつだけ、道端に落ちている、なんてことはない石ころの気持ちを代弁するのなら、きっと今のジェスの心がそれを表しているのだろう。パーティーにあわせて扮装することもないジェスらの格好は、いつもと変わらず騎士団から支給されている服装なのだから。それに加えてジェスの容姿は特異だ。今もちらちらと投げやる視線を痛いほど感じている。視線に応えようと振り返れば、慌てて俯き視線をそらされるのだ。慣れている、とは言ってもやはり気分のいい態度ではない。