万年樹の旅人
「貴方様がジェス様でしたか! そうでしたらちょうどいいところに! ジェス様からもこの髪飾りを着けるようルーン様にきつく言ってやってくださいませ!」
侍女なのだろうか、周りの女たちとは違って軽い装いで、さあと差し出された手に乗せられた髪飾りは、自分が渡したものの何倍の値がはるのだろう、と眩暈すら覚える豪奢な髪飾りだった。たくさんの花が所狭しと集められ、見事なまでの珠がところどころに散りばめられている。小さなブーケにも似た髪飾りを受け取ろうと伸ばした手を、ルーンがぐいっと引っ張り遮った。
「そんなのいらないわ。代わりにジェスから貰ったのを外せって言うのよ」
侍女を睥睨し、やがて視線をジェスに戻す。
向けられた笑顔と一緒に、万年樹のもとから香る甘いにおいにも似た芳香が、ルーンの耳元から流れてきた。いつも彼女から感じる馴染んだにおいに、なぜか安堵した。慣れない場所で、知らず緊張していたのだろうか。
「そんなこと言わずに……せっかくアズ様がご用意してくださったお品ですよー……」
お願いですから、と懇願する侍女を尻目に、ルーンは一向に首を縦に振ろうとはしなかった。
「別に今のままでも構わないよ」
突然、背後から声がかかる。
驚き振り向いた先にアズがいた。いつ見ても変わらない、どことなく軽侮するようにも窺える涼しい笑顔。そう思うのは、ジェスが少しでも彼に後ろめたいものがあるからなのだろうか。たとえばルーンと会話することだったり、腕に絡みつく彼女の細い指にぎゅっと力が篭ったことだったり。優越を感じていないと言い切れるのだろうか。アズはジェスの薄汚い感情を誰よりもよくわかっているのではないだろうか。そんな思いに駆られる。