万年樹の旅人


 パーティーの半分を過ぎた頃だった。

 アズの父――すなわち国王からの挨拶と、アズの誕生日への祝詞を述べる儀式が残されているのみだった。公式な場ではなく、特に友誼ある者らを集めただけの小規模のパーティーといえども、招かれたほうは、やはり呑気ではいられない。時間が近づくにつれ、会場の中に緊張が走っているのがわかる。警備の騎士も、ひとり、ふたりと増えていた。談笑を交わしながらも、人々の表情には緊張と期待の色が刷けられているのが見て取れる。国王の挨拶が行われるのは、まだ数時間も後だというのに。こういった場に慣れていないジェスは、不思議な気持ちで辺りの様子を窺っていた。

 遠目で、アズの隣に並んで頭を下げて回るルーンを見ていた。

 庭園で会っているときの爛漫な彼女はどこにもいない。誰の目からも、国王となるべく存在の隣にあってもおかしくはない、品格ある笑顔を見せるルーンがそこにはいる。

 裸足で駆け回り、ジェスをはらはらとさせる危うさは微塵も感じさせない、完璧なる「王女」だ。だが時おり、彼女の顔が翳っていることを知っていた。賓客が周りにいないとき、アズの視線から逃げて、ふと我に返ったように冷えた表情を浮かべる。

 再び賓客と言葉を交わせば、今見せた冷え冷えとした表情など嘘のように華やいだ。

 そういった姿をぼんやりと眺めていると、自分と言葉を交わしたことなどまるで信じられないことのように思えてくる。細くしなやかな身体のラインを隠さないようにと拵えられたのだろう、白を基調としたドレスは、色こそいつも着ているドレスと大差ないものの、足のつま先が見えないほどたくさんの布を重ねて作られたドレスは、蕾から花開く瞬間の様子にも見えた。いつも以上にきらびやかな装飾品を身につけ、たったひとつだけ、ルーン自身が放つ目もあやな美しさが隠してはいるものの、ジェスが渡した花飾りのみが貧弱そうに見せていた。

 それを見るたび、ジェスの胸が熱くなる。

 嬉しさ半分、申し訳なさ半分。
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