万年樹の旅人

「ジェス、どうしたんだ。さっきからため息ばかりついて」

 何度もため息を繰り返すジェスを見かねて、リュウが呆れたように言った。


「あれだろ? 姫さんと話せないから、いじけてるんだろ」

「違う。そんなんじゃない」


 とは言ったものの、半分は間違いではないことをジェスは自覚していた。

 自分らを招いたのはアズであって、ルーンではない。それに王族、しかも王妃となる存在の王女と公の場で話せるなどとは思ってはいなかったが、それでもほとんど一言も話していないという事実に、少しだけ満たされない思いでいたのは確かなのだ。どれほど今まで自分が信じられない状況の中にいたのか。どれほど自分が恵まれていたのか。今日ほど強く思い知った日はないだろう。

 相変わらずの様子で茫然とするジェスを一瞥し、今度はリュウがため息をついた。

 と、同時だった。

 先ほどルーンの周りに就いていた侍女らしき女性が、笑顔で声をかけてきたのだ。

「お飲み物、いかがですか? さきほどから何も口にしていないみたいなので、もしよければ」

「よく知ってるね。じゃあ一杯頂こうかな」

 侍女の持つトレイから、リュウは自分の分とジェスの分とで、グラスを二つ受け取って、ひとつをジェスに渡した。

 ジェスは軽い礼をリュウに告げると、自分が本当に喉が渇いていたことに今更ながらに気付く。随分と長い間、何も飲まず食わずで、それに付き合ってくれたリュウに申し訳なさと感謝でいっぱいになった。

 透明のグラスに注がれているのは赤い色をした飲み物。ワインだろうか、と特に気にした様子もなくジェスはそれを口にする。喉を通って、二口目を口にしようとしたとき、侍女の手が震えていることに気付いた。
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