万年樹の旅人
叫びながらルーンは涙を流した。
今まで無言で話を聞いていたリュウが、初めてぴくりと視線を震わせ顔を上げた。その目には、困惑の色が浮かんでいた。
アズはリュウを一瞥すると、何か言いたげな視線を無視してルーンに戻した。
「見送らなくていいのかい、もうすぐ最後の一本が切れるよ、ルーン」
恍惚とした口調に怒りを覚えたが、それさえもどうでもいいと思わせるほど、ルーンは焦燥していた。
消えてしまう。
ジェスの魂が。
今生では無理でも、来世かその次の世か。一緒になれたらと心のどこかで常に願っていた。そんな些細な希望すらも糸と一緒に切れて溶けてしまおうとしている。
自分の淡い想いがジェスに届くなんて、一度だって考えたことはない。王族に生まれた以上、規律の中での自由しか与えられないのは、ルーンにだって理解していた。兄の妃となり、国を支える一員となったとき、今までのように頻繁にジェスに会えるとも思っていなかった。けれど、時おり自室から外を覗いて、ジェスの姿を見るだけでよかった。もし彼が、自分のことをひとりの女性として見てくれていたとしても、たとえアズの言うように、逃げようと告げられたとしても、ルーンは王妃としての自分を選んだ。
それなのに……。
最後の糸が、小さな音をたてて切れた。やっとの思いで自由になったジェスの魂は、みるみるうちに空中へと舞い上がる。やがて形もおぼろげに、大気へと戻っていった。
「ルーン王女!?」
泡のように消えていったのを見届けると、ルーンは勢いよく立ち上がり駆け出した。その後をリュウが慌てて追いかける。
二人が駆けていく様子を、アズは静かに見つめていた。