万年樹の旅人
――万年樹の前で、絶対にお願いごとを口にしては駄目よ?
母の声が脳裏によみがえる。いつだったか、あれもこれもとわがままな願いごとを口にした幼いルーンに、諭すように、けれど厳しい口調で母は言った。
――王族が願ってしまったら、本当にそうなってしまうの。
ルーンが願ったものは、最近街で人気があるらしい、氷を砕いた上に果実をすりつぶして、とろりとした液と果肉を混ぜたものを上からかけ流し食べるという、甘くて冷たいデザート。ルーンが毎日食べる夕食時のデザートには一度も出たことがない。最近ルーンの周りを世話する侍女の話によれば、街に溢れる若い年頃の女性に今一番の人気の食べ物なのだという。話してくれた侍女も、王城に就く前は何度か食べたことがあるというではないか。知らなければなんてこともないが、聞いてしまえば途端に興味が湧くのが幼い少女ならではのわがままだ。
なんとかして食べてみたい。
けれども、その前にお母様にも教えてさしあげなくては。自分と一緒で、知らないかもしれない。もし同じように食べたいと思ってくれたなら手配してくれるかもしれない。そうなったら自分も近い将来食べられることができるのかもしれない。そう思って、何も考えずに母に話した。
……それが、こんなに叱られなくてはいけないことだったのだろうか。
しかし母の目は真剣で、以前廊下に飾ってある壺を落として割ってしまったときよりも恐ろしかった。あのときもこっぴどく叱られたが、怒鳴り威嚇するような恐怖ではないが、うなじにそっと刃を添えられたような、そんな底冷えする恐怖だった。