恋愛の条件
(修に彼女がいるかなんて考えもしなかった。そうよね、いないはずないわよね……)


奈央はガタンと席を立つ。

一瞬クラっと立眩みに似た浮遊感を感じるが、デスクに手をついて支えた。


(ヤダ、考えたくない……)


「広瀬さん?どうしたんですか?」

五十嵐が心配そうに奈央を覗き込んだ。

本人は自分が落とした爆弾のその重みも威力も気づいていない。

「大丈夫…。黒沢チーフがいないせいで私の仕事が増えて、疲れが溜まっているみたい」

「そうですよね、広瀬さんが殆ど代りに業務こなしていましたからね」

「ちょっと休めば大丈夫だから」

「無理しないでくださいね。全く、こっちは大変だというのに、黒沢チーフ、彼女に会って出張を思いっきり楽しんでそうですよね?」


(頭が回らない……何も考えられない……)


ハンマーで思いっきり脳天を叩かれた感じとはこういうことを言うのだろうか?

奈央はそのまま、お昼休憩に入るといい、オフィスから離れた。

奈央自身、修一が女にモテることも、数多くの女と付き合ってきたことも知っていた。

感情もなく女を抱けることも……。

3年前の情けない自分の姿がオーバーラップする。


(私はまた同じ過ちを犯そうとしているの?)


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