恋愛の条件
奈央は諦めたように手の力を緩め、今にも泣きそうな瞳で修一を見つめた。

「奈央……?」

「もう、やめてよ……」

奈央の弱々しく、悲痛な声に修一の指の動きが一瞬止まる。

「何でこんなことするの?」

奈央の大きな瞳には涙が溢れ、今にもこぼれ落ちそうだった。

「私は修の玩具じゃない」

奈央のことばに修一が瞠目する。

「俺は…お前のことを玩具だなんて思ってない」

「じゃぁ、何でこんなことするの?私だってひどいこと言われれば傷つくし、こんなことされれば辛いのよ……」

奈央は溢れそうになる涙をこらえ、言葉を続けた。

「もう私を振り回すのやめてよ。からかいたいなら他の子にして……」

「奈央……」

肩を震わせ必死で涙をこらえている奈央を、修一は抱きしめようと手を伸ばすが、周囲を見渡しその手を引っ込める。

「奈央、聞けよ?」

「聞かない!私は何も話しすることはないから」

「奈央は誤解している。俺は……」

「お願い、行って……今は修と何も話したくない」

奈央は修一の言葉を遮り、頑なに顔を下に向け修一を見ようとしなかった。

「らしくないでしょ?こんな顔見られたくないのよ。ほら、あっちで修のことも探してるわよ?」

奈央の視線の先には、赤い顔をした部長が「黒沢~」と何度も名前を呼んでいる。

「……クソッ」

修一はその綺麗な顔を歪め、グラスに並々と入っていたビールをいっきに飲み干した。

下を俯いたままの奈央の頭をくしゃっと撫で、その場から離れた。

ごめん……そう聞こえた気がした。


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