恋愛の条件
(もう、最悪。何かフラフラするし、帰りたい……)


奈央は周囲に分からないよう涙を拭い、捲くれたスカートを直した。

修一に触れられることが、一緒にいることがここまで辛いと思ったことは始めてだった。


(限界かな?プライドだけじゃ、意地だけじゃ、もう心を支えておくことができない……)


『誰か甘えられる人…いないの?』


片桐の言葉が深く奈央の心に突き刺さる。

そんな男(ひと)なんていなかった。

いつも一人で頑張ってきた。

どんなにいい男と付き合っても、結局気付いたらポツンと一人で立っていた。

奈央はそっと荷物をまとめ、宴会の座敷を後にした。


居酒屋を出ると小雨が降り出し、気温もぐっと下がっていた。

「寒っ……あっ、コート忘れた」

奈央はコートを取りに戻ろうとしたが、その足を止めた。

修一と顔を合わせたくない。

このまま帰ろう、別に自分がいなくなっても、あの盛り上がり方だったら分からないだろうと奈央はそのまま前に進んだ。

奈央はタクシーを捕まえようと車道を乗り出したが、金曜日ということもあって中々捕まらない。

「もう、本当についてない……」

雨が段々と激しくなり、奈央はその細い身体を震わせた。

すごく自分が惨めに感じられ、もうタクシーを拾うことも諦めた。

コートも忘れ、雨で化粧も落ちかけている。


(グラス一杯のビールでフラフラになって。27にもなって何やってんのよ…… 情けなくて、泣けてくる……)


奈央はフラつく足取りで雨の中を一人歩き出す。

交差点で信号を待っていると、大きな影が落ちてきたかと思うと、冷たく打ち付けていた雨が緩んだ。



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