恋愛の条件
奈央の顔が苦痛と葛藤に歪み、与えられる甘い快感に贖おうとする。

そのまま手を引かれて抱きしめられたい、そんな衝動にかられるが、奈央はその手を振りほどきいた。

「私……」

「どうした?」

「私、片桐さんと付き合うの……」

咄嗟に出た奈央の虚しいなけなしの嘘。

その言葉に一瞬、修一の表情が曇ったが発せられた言葉はいたって冷静だった。

「へぇ、何、昨日ほろ酔い気分で誘われた?」

「そうよ……」

「それで?」

「それで、って……」

修一の表情からは何も読み取れない。

まるで世間話をしているようだ。


(少しは焦ってよ……振りでもいいから焦ってみせてよ。私の気持ちが片桐チーフに揺れるとか思わないの?)


少しでも自分に気持ちがあるなら止めて欲しい。

嫌味でもいいから感情を出して欲しい。

でも――

気持ちがないなら、思いっきり突き放してほしい。


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