恋愛の条件
オフィスに戻ると、何人かの社員が席に戻っていた。

営業から戻った後だと、昼休みにもかかわらず仕事を頼まれることがある。

音を立てず、給湯室に逃げ込むよに身を隠した。

入社したての頃は、お昼時だろうが仕事を頼まれたら喜んでシッポを振っていたもんだ、と5年前の初々しい自分を懐かしく思う。

(当時はまだ素直だったなぁ……)

ドリップコーヒーの雫が落ちきるのをぼおっと眺めながら裕樹に言われたことを反芻する。

あのままダラダラ付き合っていても裕樹に満足することはなかったかもしれない。

奈央にとって裕樹は外見も中身も申し分のない男だった。

歳は二つしか変わらないが、彼女には優しく、大人だった。

条件的にはお手頃な優良物件だった、と失礼なことを思い苦笑いする。

(そうね、実際、裕樹の言う通り試していたのかなぁ……)


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