恋愛の条件
他の社員に教えるなということは、勿論女子社員のことを意味しているのだろう。

「聞かれる」と前提しているところが修一らしい。

奈央のことも絶対に店で待っていると思っているに違いない。


(行かないわよ……絶対に……)


帰路を急ぐサラリーマンの群の中、奈央は道の真ん中に一人立ちすくんだ。

この修一の新しい番号を登録することも消去することもできないまま、奈央はじっと携帯の着信画面を見つめた。

何を迷っているのだろうか?

さっさと消去して家に帰った方がいい、必要最低限関わるのはやめた方がいい。

きゅっと唇を噛みしめ、携帯を閉じる。

携帯をコートのポケットに突っ込み、駅に向かおうとした時、背後からひどく優しい声で「奈央」と呼び止められた。

気遣うような、そして温かく包み込むようなその声色に嫌な予感がする。

ゆっくり振り返るとそこに立っていたのは、つい数日前まで、奈央が一番顔を合わせたくないと思っていた元カレの山下裕樹だった。
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